スタートアップ創業初期、発信機のインダストリアルデザイン、量産立ち上げに始まり、サービスとの出会いから利用までの体験デザイン、ロゴやアクセサリーを含む初期ブランディングへと展開。トータルなデザイン価値をサービス基盤として実装、事業成長の加速度を高めると共に、グッドデザイン賞金賞の受賞も実現しました。
小さな発信機から、サービス全体を捉え直す
ココヘリは、山で遭難した人を捜索するための発信機と、捜索を支える会員制サービスです。ユーザーが手にするものは小さなハードウェアですが、その背景には、購入、会員登録、携行、緊急時の捜索、更新やサポートまで、長い時間軸の体験があります。
創業初期に必要だったのは、発信機の外観を整えることだけではありませんでした。サービスを初めて知った人が価値を理解し、命を預ける道具として信頼し、山へ持っていくところまでを一つの体験として成立させること。そのため、プロダクトデザインを起点にしながら、量産、パッケージ、アクセサリー、ウェブ、コミュニケーションへと対象を広げていきました。
「お守り」として携行できるプロダクト
発信機は、緊急時にだけ使う機器です。日常的に操作する道具とは異なり、使わない時間のほうが圧倒的に長い。それでも、登山のたびに忘れず携行され、身につける人に安心感を与える存在でなければなりません。
そこで、プロダクトの基本的な考え方を「山のお守り」と定めました。六角形の形状を基点に、小型機器としての堅牢さ、携行性、視認性を調整。ザックやウェアとの取り付け方を検証しながら、ホルダーやアクセサリーを含めた使用環境全体を設計しました。
また、着脱可能なパネルを設けることで、機能を変えずに外観を展開できる構造を採用しました。これは単なるカラーバリエーションではなく、ユーザーの好みやアウトドアブランドとの接点を生み出す、サービスの拡張基盤にもなりました。
デザインと量産を切り離さない
スタートアップでは、完成された仕様をデザイナーが受け取るとは限りません。要求仕様、部品構成、製造条件、コスト、スケジュールが同時に変化するなかで、実際に生産できる形へ収束させる必要があります。
試作と検証を繰り返し、外観だけでなく、組み立て、耐久性、梱包、出荷までを確認しました。製造上の制約をデザインの外側に置かず、サービスを社会へ届けるための実装条件として扱う。インダストリアルデザインと量産立ち上げを連続した活動として進めたことが、初期のサービス基盤を支えました。
出会いから利用までをつなぐTotal UX Design
プロダクトが完成しても、ユーザーがサービスの意味を理解できなければ利用にはつながりません。山岳捜索という仕組みは、通信機器の機能だけでは説明しきれず、どのような状況で役立ち、家族にどのような安心を届けるのかまで伝える必要がありました。
ロゴ、パッケージ、同梱物、ウェブ、会員登録、携行時のアクセサリーなど、ユーザーとの接点を横断して情報と表現を整理しました。それぞれを別々の制作物として扱うのではなく、サービスとの出会いから実際に山へ持っていくまでの一連の体験として設計する。ここで形づくられたTotal UX Designの考え方は、その後のサービス改善やブランド活動の土台になりました。
プロダクトから生まれた共創の余白
着脱式パネルをはじめとする拡張性は、アウトドアブランドとのコラボレーションにもつながりました。サービス側のメッセージを一方的に発信するのではなく、ブランドが持つ文化やユーザーとの関係を重ねることで、ココヘリを知る新しい入口が生まれました。
この取り組みは、後にブランドとの共創を通じて山の安心・安全を広げる「Movement」の活動へと発展していきます。→ 詳細は Design in Startup #06
サービス基盤として評価されたデザイン
発信機から始まったデザインは、量産、アクセサリー、ブランド、ウェブ、利用体験へと広がりました。中心に置いたのは、個々の接点の完成度だけではなく、ユーザーが安心という価値を一貫して受け取れることです。
こうしたサービス全体のトータルデザインは、2021年度グッドデザイン賞「金賞(経済産業大臣賞)」を受賞しました。受賞は一つの結果ですが、より重要だったのは、プロダクトとサービスを切り離さずに実装したことが、事業の成長を支える共通基盤になったことでした。
